recollection’s blog

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D‐ブリッジ・テープ

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D‐ブリッジ・テープ (角川ホラー文庫)
D‐ブリッジ・テープ (角川ホラー文庫)沙藤 一樹

角川書店 1998-12
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D‐ブリッジ・テープ (角川ホラー文庫)

あらすじ

ゴミの不法投棄で、ハンターハンターの流星街や、ダーウィンの悪夢に出てくるゴミの町みたいになってしまった近未来の横浜ベイブリッジ。そこで発見された、ある少年の残した一本のテープ。そのテープに込められた少年の独白を聞くという形で物語は語られる。4歳程度でゴミの中に捨てられた少年、その少年は、そこから出ようとして足を失い、食べるものがない中でアリや蛾、ムカデなどの虫や、食べられるものは何でも食べて生き残る。そしてある日、少年は同じようにゴミの中に捨てられた少女と出会う。少女の名前はエリハ。彼女の眼は見えなかった。

少年と少女はゴミの中でともに生活をするようになるが、ある寒い冬の日、とうとう食べるものが何もなくなって…。

感想

すごい。

物語自身もすごいが、何よりもすごいのは、この“文体”だと思う。地の文はなく、すべて少年の語る言葉として語られる。少し前に「あたし彼女」の文体について、話題になったけれども、それと同じような臨場感とそして、生っぽいその時の感情の動きが伝わってくる。ちょっと一部を引用。


「エリハは肯いて」

「で、それからしばらく、じっとしてた」

「どういうわけか、鳩もじっとエリハに抱かれてた」

「しばらくして、『やっぱり俺がやろうか?』 って訊いたら、ユリハは首を横に振った」

「で、一気に、鳩の首を包丁で切った」

「鳩は一、二回、バサッと翼を動かしただけで、すぐに動かなくなった」

「エリハの両手両腕は、血で真っ赤になってた」

「服にも、いっぱい血がついてた」

「あまり馴れてなかったのと、包丁を刺したままじっとしてたんで、そうなったんだ」

「で、エリハはそのままの姿勢で、顔だけを俺に向け、ニッコリと笑った」

「それで、こう言ったんだ」

「『あたしも、自分の手で殺したわ』 って」

「そう言ってからユリハは、フラッと倒れかかったんで、俺は慌てて身体を支えた」

「ユリハはそばの物に手をついて、『大丈夫』 って言った」

「それから、ふいに、『これは……』 って呟いた」    「鳩と包丁を俺に返して、ユリハは何かを確かめるように、手をついた物を撫でた」

「で、『ピアノだわ』 って言った」

「そのときの俺はピアノを知らなかったんで、またエリハの言葉が分かんなくなった」

「それで、ピアノって何か訊くと、『見てて』って言って、鍵盤の上の蓋を開けた」

「それから、『ううん、見ててって言うより、聞いててね』って、楽しそうに言い直した」

「で、ユリハは血まみれの手で、ピアノを弾き始めたんだ」

「綺麗な音だった」

「それまでに聞いたことのねえ、綺麗な響きだった」

「当たり前だけど、それからも、ユリハの弾くピアノ以上のものはなかった」

「エリハは、『このピアノ、少し音が狂ってる』って言ってたけど、そんなことはねえ」

「俺にとっては、いちばんの音だ」

「そのとき俺は、知らねえうちに、泣いてた」

「涙ってのは、嬉しいときにも流れるんだな」

「そのとき、俺は初めて知ったよ」

「で、あのピアノは、不思議と、ユリハじゃねえと椅麗な音を出さなかった」

動物のように生きてきた少年と、汚れを知らなかった女の子の世界が交わる瞬間。本当に美しいと思う。